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「低酸素トレーニング」と「高所トレーニング」について①

近年、民間のトレーニングジムにおいても“低酸素発生装置”を導入するところも増え、手軽に「低酸素(高所環境)トレーニング」を行えるようになってきました。低酸素環境でのトレーニングというと、これまでは山岳地帯などの高所環境に移動・滞在しなくてはなりませんでしたが、低酸素の設備が一般化するようになり、アスリートやスポーツの愛好者が「低酸素トレーニング」を導入する障壁が、かなり低くなってきています。

 

科学的なエビデンスのあるトレーニングを実践できるのは素晴らしいことです。私もお勧めしたいトレーニングの一つでもありますが、その一方で「低酸素トレーニング」のメリットばかりが取り出されて、デメリットに関しての記述を見かけることが少なく思えます。また中には間違った認識や情報も存在するようです。

 

例えば、トレーニング効果のひとつとして、赤血球(ヘモグロビン)数の増大がそれにあたります。低酸素環境下に晒されるトレーニングには、大別すると「高所トレーニング」と「低酸素トレーニング」が存在します。トレーニングのみを低酸素環境で行う(LLTH /Living Low - Training High)ような、いわゆる「低酸素トレーニング」では、条件が整わなければ、赤血球(ヘモグロビン)数は増えません

 

今回はこの「低酸素トレーニング」についてお話をしていきます。

さて「高所トレーニング」の代表的な効果である赤血球(ヘモグロビン)数の増加については、低酸素環境に晒されることにより、私たちの身体の中では、酸素を運搬する赤血球数が増え、低酸素環境でも効率よく酸素を運ぼうと適応します。

高所トレーニング」による赤血球(ヘモグロビン)数の増加は、平地環境でのレースにおいても酸素運搬能力を向上させ、結果として競技パフォーマンスを向上させます。しかし、こうした適応は高所に長期間滞在した際に得られる効果です。一方で、「低酸素トレーニング」では、一日のうちに、低酸素環境にせいぜい23時間ほど晒される程度です。実は、この程度の短時間に低酸素環境に晒されること(低酸素曝露)では、赤血球数の増加の刺激として不十分であることが、これまでの研究で明らかとなっています

それでは赤血球を増やすための最低限必要な曝露は、具体的にどのくらいの時間、頻度なのでしょうか?

 

前述のとおり、一日のうちに数時間程度の低酸素曝露では、赤血球数を増やす刺激として不十分です。これまでの研究結果から総合的に観ると、赤血球数を増やすためには、標高2000m相当以上の低酸素環境に滞在することを、一日あたり12時間以上、2週間以上継続することが必要と考えられています

ちなみに高所トレーニング」として考えたとき、標高2000m以上の合宿地は稀です。概ね2000m未満の準高地で合宿を行うことが多いと思います。その場合に赤血球数を増やすには、さらに期間を長くする(>2週間)必要があると考えられています。これらの結果から、低酸素環境を利用して赤血球(ヘモグロビン)数を増やすには、基本的に低酸素環境で寝泊まりする必要があります(LHTH /Living High-Training High。赤血球(ヘモグロビン)数の増大に伴う酸素運搬能力を向上させる目的で、「低酸素トレーニング」(2-3時間/)を行ったとしても、狙った効果は得られないので注意が必要です。

 

さて今回のブログはここまで、次回は「低酸素トレーニング」では赤血球(ヘモグロビン)が増えない代わりに、何が変化し、何が向上するのでしょうか?についてです。