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持久系アスリートのパフォーマンスは月間走行距離で決まるのか?  -トレーニング強度のバランス指標を考える -

さて持久系アスリートのトレーニング処方では、よく月間走行距離が注目されますが、月間走行距離はあくまで“トレーニング量の指標”でしかありません

月間走行距離の大小だけで“良いトレーニングか?”“悪いトレーニングか?”が決まるわけではありません。

実際はトレーニング量の指標である月間走行距離に加えて、トレーニング強度のバランス指標として“トレーニング強度配分(TID/Training Intensity Distribution)”があります。

トレーニング強度とは、簡単にいうとペースのことです。

一般的に、ジョギング(LT以下)は低強度、ペース走(LT付近)は中強度、インターバルトレーニング(VO2max付近)を高強度に分類されます(3ゾーンモデル)

 

    3ゾーンモデルの強度分類

低強度(ゾーン1)LT以下の強度

血中乳酸濃度が2 mmol/l 以下あるいは80%HRmax以下となるような強度

 

中強度(閾値強度、ゾーン2LTOBLAの強度

血中乳酸濃度が2-4 mmol/l あるいは80-88HRmaxとなるような強度

 

高強度(ゾーン3OBLA以上の強度

血中乳酸濃度が4 mmol/l 以上あるいは88%HRmax以上となるような強度

 

LT=マラソンペース前後;OBLA10000mペース前後;HRmax=最大心拍数

 

上記のようなトレーニング強度配分を用いることで、月間走行距離の「内容」が分かるようになります。同じ月間走行距離であったとしても、例えば低強度をメインでやった時と中強度~高強度も織り交ぜながらやった時では効果が異なります。

 

前述のように月間走行距離の大小だけで、トレーニングの良し悪しが決まらない理由の一つとして、トレーニング強度配分の違い、すなわちトレーニング内容の違いが挙げられます。良好なトレーニング効果を得るためには、月間走行距離だけを着目するのではなく、バランスの良いトレーニング強度配分でトレーニングをする必要があります

 

では、“バランスの良い効果的なトレーニング”とはいったいどのようなものなのでしょう? これまでに持久系のエリートアスリートがどのようなトレーニングをしているか? また沢山のトレーニングモデルが持久性運動パフォーマンスを高めるのに、どのくらい効果があるのか? について盛んに研究されてきました。その結果、低強度を75%、中強度を5-10%、高強度を15-20%程度の頻度で行うのが、最も効果的に持久性運動パフォーマンスを高めることが明らかなっています(Stöggl and Sperlich, 2014; Muñoz et al., 2014)

 

持久性トレーニングといえば、ペース走や距離走など中強度のトレーニングを中心に行うのが代表的な方法と考える人も多いかと思います。しかし、研究結果からは、低強度運動(ジョグなど)をたくさん行い、トレーニング量を確保しながら、週に2回程度のインターバルなどの高強度トレーニングを行い、中強度をあまり行わないといった低強度と高強度を中心に行うトレーニングが効果的と示されています。このような低強度と高強度にメリハリをつけたトレーニング強度配分は“Polarizedトレーニングモデル”と呼ばれています。

 

Polarizedトレーニングの強度配分(頻度)

低強度75%;中強度;5-10%;高強度15-20%

 

Polarizedトレーニングモデルは、この言葉の意味の通り、上記のようにトレーニングの大部分を低強度と高強度に配分(二分/Polarize)し、中強度のトレーニングをあまり行わないという特徴があります。これまでに、国際大会で活躍する距離スキー、ボート、サイクリスト、ランナー、トライアスリートといった持久性アスリートの多くが、Polarizedトレーニングモデルを用いて、効果的・効率的に持久的運動能力を高めていることが報告されています。

 

月間走行距離もトレーニング強度配分も、どちらもトレーニング効果を決定づける大事な要素ですPolarizedトレーニングモデルの強度配分を維持しながら、継続可能な範囲で月間走行距離を多くすることが推奨されます。
月間走行距離を増やすことにとらわれ過ぎると、無理にジョギングの頻度や一回の走距離を増やしてしまい、長期的に疲労が蓄積しトレーニングが継続できなくなったりします。

また、高強度トレーニングでは、少なくともOBLA90%HRmax程度を上回る強度で行うことが推奨されますが、月間走行距離を増やすために、インターバル走一回あたりの走行距離を延ばしすぎたり、インターバル走の本数を増やし過ぎたりすることで、推奨された強度が維持できなくなり、狙った高強度トレーニングの効果が得られないことも考えられます。

 

下記にPolarizedトレーニングの優位性を実証した研究報告の4つの比較対象トレーニングモデルを上げます。

※対象者は47名の十分に鍛錬されたエリートアスリート

 

Polarizedトレーニング(POL)  低強度:中強度:高強度=68±12: 6±8: 26±7

・高強度インターバルトレーニング(HIIT) 低強度:中強度:高強度=43±1: 0: 57±1

・閾値トレーニング(THR) 低強度:中強度:高強度=46±7: 54±7: 0

・高ボリュームトレーニング(HVT) 低強度:中強度:高強度=83±6: 16±6: 1±1

 

研究結果では、いずれのトレーニングと比較しても、LTパワー、漸増負荷試験での最大パワー値(PPO)95%最大パワー(95PPO)での疲労困憊までの運動時間が、THRに比べ、POLで有意に向上したことを報告しています。

これは十分に鍛錬されたエリートアスリートでは、LTそのものを伸ばすためには、LT付近の練習を増やすよりも高強度運動を増やすことが効果的であることを示しています。

※ジュニアエリート、サブエリートでも同等の研究報告あり。

 

また、一方で普段あまり運動していない人を対象とした場合は、中強度のトレーニング(THR)により持久的運動能力が向上する(Denis et al. 1984)

その他の研究では、あまり運動をしていない人やレクリエーショナルなレベルの運動愛好者が、鍛錬を積んだアスリートと同じ水準のVO2max/最大酸素摂取量 (> 60 ml/kg/min)に達するまでは、通常数年はかかるといわれていますが、Hickson et al (1977)の研究では、10週間のHIITにより、8名のレクリエーショナルなレベルの運動愛好者のVO2max44%増加し、さらに8人中4人の被験者は、わずか10週間のHIITトレーニングでVO2maxが > 60 ml/kg/minに達したなどの報告があります。

 

以上のことから、普段運動をしていない人~レクリエーショナルなレベルの運動愛好者にとっては、THRモデルでも運動能力の改善を起こせる可能性がありますが、競技レベルが上がるにつれて運動能力をさらに高めるには、高強度トレーニングの頻度を増やすことが重要になってきます。

このような研究結果から、POLモデルを参考にトレーニング強度配分を考えた持久的トレーニングメニューを組むことをお勧めしますが、時間的制約を受ける人にとってはHIITを中心としても類似の効果が期待できるかもしれません。THRモデルは、競技レベルのある程度高いアスリートにとっては、必ずしも有効ではない可能性があります。