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高強度なウエイトトレーニングは持久系スポーツにとって、プラスなのかマイナスなのか?

 

前回のブログは下記のタイトルでウエイトトレーニングの有効性のお話をしました。

 

“ランニングのパフォーマンスを上げるためには、ストレングストレーニングは有効か?”

 

過去、ウエイトトレーニングによって骨格筋が肥大することは、筋力アップにつながり一部のアスリートにとって好ましい変化であるが、持久系アスリートにとっては、必ずしもポジティブな効果があるとは限らないと言われてきました。

その理由として大きく2つの要因が考えられます。

 

 

 ①    骨格筋が肥大し筋重量が増えると運動の効率(RE /ランニングエコノミー)が低下する。

        これは、四肢の重量が増えると末端が振り回しにくくなり(モーメントが大きくなり)、同じ運動をするのにより多くのエネルギーを必要と

       することになります。

 

②    骨格筋が肥大すると骨格筋細胞内での酸素やエネルギー基質の移動(拡散)する距離が長くなり、酸素やエネルギー基質を効率的に使い

       づらく なる。

 

この2つの要因が、持久系アスリートが骨格筋を肥大させることは、運動パフォーマンスにネガティブに働く可能性があり、高強度の筋力トレーニングがエンデュランスアスリートを敬遠させてきた理由と考えられます。

 

しかし実際は、持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを同時に行った場合、筋肥大はほとんど起こらず、先行研究によると“骨格筋の肥大が起こらなくとも筋力の向上は十分に得られる”ことが分かっています。したがって、持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを組み合わせると、昔から言われる「筋トレをして体重が増えて動きが悪くなる」というようなことはなく、筋力アップすることの恩恵を十分に受けることができます。つまり、持久性トレーニングを行いながら高強度の筋力トレーニングを実施しても、多くの場合、筋肉はほとんど肥大せずに筋力が増大します。

 

前回のブログでも紹介させていただきましたが、持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを組み合わせた際に筋力が向上しますが、その構成要素内の“骨格筋の横断面積は全くもしくは、ほとんど増加しない”ことが分かっています。また、“筋線維組成も先天的に決まる要素が大きく、後天的には少なくとも筋力の増大に有利な適応は起きにくい”のです。つまり、持久性トレーニングと高強度の筋力トレーニングを組み合わせた際に起こる筋力の増大は、“神経系の適応に大きく依存する”と考えられます。

 

それではこの“神経系の適応”とはいったいどういうものなのでしょうか?

骨格筋は神経細胞からの電気刺激によって収縮しています。そして、この電気刺激の大小により骨格筋が発揮する筋力の大きさが変わってきます。つまり、高強度の筋力トレーニングによる神経系の適応により、骨格筋そのものの肥大に頼らず、“骨格筋に対する信号を強めることで筋力を増大させる”ことができます。

また、神経系の適応により筋力以外にも“力の立ち上がり率(RFD =Rate of Force Development)も増大する”ことが知られています。力の立ち上がり率とは、ある決まった時間内での力の増加率を示すもので、簡単に言えば“短い時間で大きな力を発揮できるか”という能力を示すもので、筋力やRFDが向上するとラストスパート時などに一気にスピードを上げられる能力につながります。それ以外にも筋力やRFDの向上が持久性運動パフォーマンスの向上にも貢献します。それは、最大筋力が向上すれば、ある最大下の強度で運動する時により楽に運動できる(相対運動強度が下がる)ようになると考えられるからです。

さらにランニングは、接地時間0.1秒~0.2秒程度の限られた時間の中で大きな力を加えてスピードを上げる必要がありますが、RFDが向上すると短い接地時間でも効率的に地面に力を加えることができます。

このように高強度のウエイトトレーニングを行い、筋力やRFDが向上すると、ランニング中、楽に効率よく地面に力を加えられるようになり、ランニングエコノミーの向上につながっていきます。

 

さて今回のブログもウエイトトレーニングの重要性についてお話をさせていただきましたが、次回も引き続き、ウエイトトレーニングのお話を生理学的な要素を交えながら行います。イントロとして少しだけお話をしますと、筋肉そのものである筋繊維を“ATPase染色法”という方法で分類すると、4つの筋繊維タイプに分けられます。大まかな内訳は遅筋が1つと速筋が3つです。この中にある“持久性運動パフォーマンス向上に重要な役割を果たす筋繊維”が高強度の筋力トレーニングにより向上することをお話していきます。

 

<参考文献>

Mikkola et al. 2007. Concurrent endurance and explosive type strength training improves neuromuscular and anaerobic characteristic in young distance runners.  Int J Sports Med.

Aagaard P and Andersen L. 2010. Effects of strength training on endurance capacity in top-level endurance athletes. Scand J Med Sci Sports.

Wilson JM et al. 2012. Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. J Strength Cond Res.