· 

糖質制限食についての功罪①

 

 「スポーツでパフォーマンスを高める」「減量やダイエットに成功したい」などの目標を達成するためには、本来、人間のカラダは何をエネルギーとして使っているのかということがポイントになります。

安静時の代謝を分析すると、糖質が50%、脂質が50%の割合で使われています。どんな人間でも1日のエネルギーの半分を糖質で賄わないといけません。

活動量が増えることで、安静時より約3倍以上のエネルギーを使うことになりますが、脂肪は大きい分子であるため利用するときに酸素の分子が約80個必要です。一方、糖質の代謝は約6個の酸素分子が必要で非常に効率が良いものです。そのため人間は運動中により多くの糖質を使います。アスリートは1日のエネルギーの7割以上を炭水化物で摂る必要があるわけですが、1日の炭水化物の量を総エネルギー量の30%に減らすとエネルギー不足に陥る。足りない分のエネルギーは脂肪からは動員されません。糖新生といって筋肉にあるアミノ酸を分解してエネルギーを作り出します。

 

1992年に報告されたアメリカの臨床栄養学の研究報告では、1日405キロカロリー分の食事しかしない超低エネルギーダイエットを4日間続けたらどうなるかという実験があります。体脂肪の減少はほとんどありませんでしたが、体重は多い場合で4~5kg減る可能性があるという結果でした。

 

"体重が落ちる=脂肪が落ちた"!これは数字のマジックです。体内に蓄積されている糖質、グリコーゲンには1個の分子に水が3~4倍結合しています。筋肉や肝臓は水分をたっぷり含んで重い。炭水化物を抜くとグリコーゲンが枯渇するので逆の現象が起きます。水分が減ったことによって「痩せた!」と勘違いしているのです。また体内の水分がなくなることでお肌も潤いがなくなってしまい、お肌にとってもマイナス効果です。

 

ダイエットの初期には水分が抜けることで体重が減ったとしても、その後ダイエットを続けていけば別のエネルギー代謝経路が働くのでは?と考えると、肝臓で行われる糖新生によるケトン体(脂肪やアミノ酸の代謝物)などが考えられますが、安静時代謝を約1,600キロカロリーとして、その半分の800キロカロリーを全部ケトン体でカバーするのは、ちょっと無理があります。

ケトン体(ケトジェニック)に関する考え方が出て来た経緯は、アメリカの糖尿病の男性が認知症になって、中鎖脂肪酸からケトン体ができるということが判明し、中鎖脂肪酸のココナツオイルをたくさん食べさせたら認知症が改善した研究結果があります。この研究者がその症例を学会で発表して、人間は糖質をカットしてもケトン体を使うことができるといった研究がケトジェニックの始まりになります。

確かに、炭水化物を摂らずに4~5日間、飢餓状態は続くとケトン体を優先的に使うシステムに切り替わります。このシステムは超長距離スポーツ(24時間耐久マラソンなど)を実践するアスリートには有用かもしれませんが、糖質という効率的なエネルギーを使えないとしたら、できるだけエネルギーを節約する生活しかできません。それに、脳は1日400キロカロリーのエネルギーを必要とします。先ほど述べたように糖質をカットしたら、筋肉を分解して糖新生をするしかありません。でもこれは己のカラダを脳に食べさせているのと同じことです。筋肉がどんどん減って、将来は認知症や車椅子、寝たきり状態です。脂肪過多でエネルギーをとることは体へのリスクが大きくなります。そういう処置が必要な人には有効でも、一般の方が追随すべきものであるか?を今一度考える必要があります。