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運動とエネルギー代謝について①

筋肉がエネルギーを産み出すためには、糖質や脂肪といった栄養素の持つ化学エネルギーを使って、いったんATPという物質が再合成されます。ATPは運動中に再合成され、筋肉を動かすためのエネルギーとして使われます。 ごく短時間で終わってしまうような運動の場合には、筋肉中に蓄えられているクレアチン・リン酸を分解したときのエネルギーからATPが再合成され、筋収縮エネルギーとして使われます。

ただし、クレアチン・リン酸の蓄えは非常に少なく、これだけではほんの数秒分しかATPを再合成することができません。運動を続けるためには、糖質や脂肪のエネルギーを使ってATPを持続的に再合成する必要があります。

 

運動中にATPを再合成するエネルギー源は、主に糖質(血中のグルコースや筋肉中のグリコーゲン)と脂肪。糖質を分解してエネルギーを出す過程は解糖系(無酸素系)と有酸素系に分かれ、解糖系では素早く大きなパワーを、有酸素系では脂肪も一緒にゆっくりと効率的に多くのエネルギーを供給します。有酸素系の代謝は細胞内のミトコンドリアと呼ばれる特殊な器官で行なわれます。ミトコンドリアは"パワーハウス/細胞内発電所"などと呼ばれています。

 

この中で解糖系と有酸素系は一連の代謝ですが、ダッシュのように短時間にたくさんのエネルギーが必要な場合には、解糖系の最終物質であるピルビン酸は有酸素系への取り込みが追いつかず、どんどん筋肉中に溜まってしまいます。溜まった物質は酵素(LDH)の働きによって「乳酸」に変換されます。運動を行うときには、運動の強度に応じて「乳酸」の産生量が変わります。

軽い運動では、「乳酸」はあまり作られませんが、激しい運動を行うとたくさんの「乳酸」ができます。しかし「乳酸」の産生量は、運動強度の増加に伴って直線的に増加するわけではなく、図のような弓なりのカーブを描きます。

 

走速度がゆっくりであれば乳酸値はあまり上がりませんが、走速度が速くなっていく、あるポイントでは血中乳酸濃度が急激に高くなっています。このように乳酸が上がり始めるポイント(2mmol程度)のところを乳酸性作業閾値(LT)と呼びます。では、このLTとは何を意味するのでしょうか?

私たちが運動をするときには、主に糖と脂肪を使って運動に必要なエネルギーを作ります。そして糖を多く使うと、結果として「乳酸」が多く作られます。したがって、運動時の血中乳酸濃度を測定することで、運動時にどれだけ糖を使ったかを推察することができます。すなわち、乳酸性作業閾値(LT)は、“糖の利用を抑えながら運動できる”最大ペースということができます。糖は限られたエネルギー源なので、長時間運動する際には上手く節約しながら運動する必要があります。そこで、糖を節約しながらなるべく速く走れるLTペースは、マラソンペースの目安とされています。乳酸値の測定は個人で行うことは難しいものですが、最近ではLT値を推測するデバイス(GARMINランニングGPSウォッチなど)でも計測が可能です。また下記の計算式を使って、心拍数からLT値の心拍数値を推測することも出来ます。

 

[最大心拍数−安静時心拍数]× 0.75+安静時心拍数 ※個人差があります

 

次回はこの「乳酸」についてのお話をさせていただきます。