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運動とエネルギー代謝について②

 

前回のお話で、私たちが運動をするときには、主に糖と脂肪を使って運動に必要なエネルギーを作り、糖を多く使うと、結果として「乳酸」が多く作られるといった説明をしました

よくある誤解の一つに、「乳酸性作業閾値(LT)からは乳酸が蓄積していき、そのため疲労する」という見解があります。

例えば、1キロあたり3分を切るような速いペースで走ると「乳酸」がたくさん蓄積し、同時に疲れてきます。

 

これは、速いペースで走る際に、エネルギーがたくさん必要になって、糖が大量に分解されていることを示しています。血中乳酸濃度が非常に高くなるようなトレーニングは「疲労するトレーニング」や「乳酸に耐えるトレーニング」ではなく、「糖をたくさん利用するトレーニング」という方が適切で、この時に、たくさんの糖を代謝するのは速筋繊維です。

 

乳酸は糖を利用する過程でできるものですが、疲労物質ではありません。特に運動中には遅筋線維や心筋で多く使われています。一方、運動中には速筋線維から乳酸ができています。そこで速筋線維で乳酸ができて、それが遅筋線維や心筋で使われています。また同じ一つの筋細胞の中でもまず糖から乳酸ができて、それがその細胞にあるミトコンドリアに入って使われるといわれています。このように乳酸はエネルギー源であって疲労物質ではありません。

 

よく血中乳酸濃度は、どんなときも低い方がよいと思われがちですが、競技種目やトレーニングの目的によって、値の評価の仕方は異なります。 一般的に、持久系の競技種目であれば、いかに“乳酸を素早く処理できるか”が重要なポイントになります。

 また、短距離やハイパワー系の競技種目では血中乳酸濃度の最大値が重要になります。 高い最大値は、無酸素系でのエネルギー供給能力の高さと、耐乳酸性(筋肉への乳酸蓄積に耐える能力)に優れているといえます。

 

マラソンやトライアスロンのような持久性スポーツでも、スピードが重要となる局面があります。そのためには糖を使うための能力を高める必要が出てきます。

一般に持久性スポーツのトレーニングでは、LTペースでの持続走を行うことが多くあると思います。たしかに、多くの長距離競技種目では、LTペースが実際のレースペースに近く、実践的な練習となります。しかし、LTペースでの練習では糖をたくさん利用することはありません。また、実際のレースでは終始一定のペースで走るわけではなく、レースの展開によりペースのアップダウンやラストスパートが存在します。

そして、一気にペースアップする際には、糖をたくさん利用する必要があります。したがって、レースを制するには、レース中の糖を節約し、勝負どころで一気に糖を使える能力が重要です

こうした一気に糖を使う能力を鍛えるには、血中乳酸濃度が大きく上がるOBLA(>4mmol/L)ペースでの、高強度トレーニングが重要です。

レースペースの練習だけでなく、“レースよりもかなり速いペースでの練習も織り交ぜる”ことが重要になります。そのためには糖をたくさん利用する“高強度のインタバルトレーニング/HIIT”が重要になってきます。

 

次回はこの“高強度のインタバルトレーニング/HIIT”についてお話をしていきます。