今回のブログは“持久性運動パフォーマンス向上に重要なある因子が高強度の筋力トレーニングにより向上する”といった内容で、骨格筋のタイプⅡaと呼ばれる筋線維の増加についてお話をしていきます。
かつて筋繊維の分類は3つのタイプに分けられ、それぞれ「タイプⅠ」「タイプⅡa」「タイプⅡb」と呼ばれていましたが、最近の研究における選別法では、概ねタイプⅠ(MHCⅠ)、タイプⅡa(MHCⅡa)、タイプⅡb(MHCⅡb)、タイプⅡx(MHCⅡx)と呼ばれ、この4つの分類が現在のコンセンサスになっています。※MHC/ミオシン重鎖
ただし、ヒトの筋線維を調べてみると、タイプⅡbはほとんどないことが分かっています。その代わり、Ⅱxがたくさん存在しています。かつてⅡbと呼ばれてきたものは、現在の選別法では、ほぼⅡxと考えられます。つまり、ヒトの場合はⅠとⅡa、Ⅱxの3つの筋繊維を中心に考えていくことになります。
※表“筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴”を参照
さらに、こういった研究が詳細に及ぶと、いくつかのタイプを併せもっている筋線維があることも分かっています。例えば、速筋線維のなかにはⅡaとⅡxの両方をもっているものがあり、このような状態は“移行途中”のものであると考えられています。
※筋線維タイプの移行は、トレーニングやディトレーニングなどによって起こってきます。動物実験ではⅠとⅡの間での移行も起こるという研究結果が報告されていますが、今のところ、ヒトで同様のことが起こるかは明確ではありません。
上記の内容を総括すると、
・タイプⅠ:力は大きくないが持久性に富んだ筋線維(遅筋)
・タイプⅡx:力は大きいが持久性に乏しい筋線維(速筋)
・タイプⅡa:双方の性質をもった筋線維で力も持久性もある程度大きい(中間筋)
この中で高強度の筋力トレーニングを行うとタイプⅡxの線維がタイプⅡaの線維へと移行していくことが知られています。つまり、持久性アスリートが高強度の筋力トレーニングを行うと持久性に乏しいタイプⅡxの線維をより持久性に富むタイプⅡaの線維に移行させることができ、このことが持久性運動パフォーマンス向上に関わっています。
このタイプⅡx線維にトレーニングの刺激を入れ、タイプⅡa線維への移行を促すには高強度の筋力トレーニングが重要です。
なぜなら運動中の筋線維の動員には“サイズの原理”と呼ばれる法則があり、筋が発揮する力が弱いうちはタイプⅠ線維から使い始め、その後発揮張力の増加に従い、タイプⅡa線維 ⇨ タイプⅡx線維と順に動員されます。
このことから、持久系アスリートによってこれまで広く行われてきた自重や低負荷での筋力トレーニングでは、タイプⅠ~タイプⅡa線維までの動員が主で、タイプⅡxへの刺激として不十分であることが多く見られます。
したがって、持久性トレーニングのみではタイプⅠ~タイプⅡa線維までの動員が主で、タイプⅡx線維にトレーニング刺激を与えることは困難なため、持久系アスリートにおいても積極的に高強度の筋力トレーニングを行い、普段刺激の入らないタイプⅡx線維を動員することが重要となります。
次回のブログでは、筋力やRFDを向上し、ランニングエコノミーを改善させ、持久性運動パフォーマンスを高めるための“具体的なトレーニング方法”についてお伝えしたいと思います。
<参考文献>
Mikkola et al. 2007. Concurrent endurance and explosive type strength training improves neuromuscular and anaerobic characteristic in young distance runners. Int J Sports Med.
Aagaard P and Andersen L. 2010. Effects of strength training on endurance capacity in top-level endurance athletes. Scand J Med Sci Sports.
Wilson JM et al. 2012. Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. J Strength Cond Res.